Home / ミステリー / クラックコア / 第030-1話 死角になる場所

Share

第030-1話 死角になる場所

Author: 百舌巌
last update Huling Na-update: 2025-02-01 11:01:05

廃工場。

 ディミトリは背中のバックから暗視装置を取り出した。

 鏑木医師の所で収穫した物だ。使い勝手の確認も兼ねて持ってきたのだ。

 バックの中身は他にガン雑誌も入れてある。万が一の時にはミリタリーマニアを装う為だ。

 ディミトリは暗視装置を頭に付けて電源を入れてみる。

 収奪した後に一度だけ試してみたが、昼間だったせいなのかピンと来なかったのだ。

 そして、思っていたより鮮明に見えるので驚いてしまった。

(最新型なだけ有って建物内の様子が鮮明に見えるな……)

 兵隊時代に使っていたものは、ロシア製の重くて使い勝手が悪い物だった。それと比べると雲泥の差がある。

 手袋をした自分の手を映しながら握ったり広げたりしてみた。

 ロシア製の物だったら真ん中が明るくて端っこが暗くなってしまう。ところが、使っている中華製の奴は全体が均一に明るいのだ。もっとも、中身の日本製の部品で実現出来ているのをディミトリは知らない。

(ふむ…… 時代の進む速度が凄いもんだな……)

 とりあえずは、取り残されないように気を付けないと、中身が三十五歳のディミトリは思ったのだった。

(さて、人の気配はしないし奥に進んでみるとするか)

 気を取り直したディミトリは足音に気を付けながら進んでいった。工場の中は耳が痛くなるような静寂に包まれている。

 聞こえるのはディミトリの息遣いだけなのだ。

 裏側から入ったからなのか廊下には小部屋が並んでいた。

 元は工場だったので様々な作業を部屋ごとに行っていたのかもしれない。

(まあ、良くある配置だな……)

 その中の一室には錆びたバーベキューコンロが部屋の中央にあった。結構、使われていたのだろう。炭などが残ったままだ。

 脇には調味料たちが無造作に置かれている。さすがに今はもう使え無さそうだとディミトリは思った。

(浮浪者が入り込んで生活してたっぽいな……)

 部屋の隅に有る薄汚れた布団を見ながら考えた。そこには元の住人が捨てていったらしい衣類などが積まれている。

 だが、布団に薄っすらと掛かっている埃の具合から見て、長らく使用されて居ないものと判断出来た。

 その隣の広めの部屋は焦げ跡がアチコチ付いている。

 空き缶とかも落ちているので、DQN達に花火でもされた跡であろうと推測した。

(室内で花火って何を考えていたら出来るんだ……)

 外でやると目立ち過
Patuloy na basahin ang aklat na ito nang libre
I-scan ang code upang i-download ang App
Locked Chapter

Kaugnay na kabanata

  • クラックコア   第030-2話 仕事熱心な狙撃兵

     ディミトリは部屋の中央に進み出てみた。死角になる場所が有るかどうかをチェックする為だ。 するとシャッターの脇から二階に伸びる階段に気が付いた。(二階が有るのか……) そのまま部屋の真ん中に立って見回していると、ある物に気がついた。二階にカメラが取り付けられている。 角度的にも部屋を全て網羅しているみたいだ。(ほほぅ……) 階段を上がって傍に寄って見てみると真新しいカメラだった。まだ、設置されたばかりなのだろう。(まだ稼働はしてないみたいだな……) カメラに電源らしきものは入っていないようだ。触ってみても冷たいままなのだ。 ディミトリはカメラの側面に書いてあるメーカーの型番を控えた。家に帰ってから性能を調べる為だ。(俺を撮影する気か?) 防犯の為なら外に向けて取り付けるし、電源は入れっぱなしにするだろう。だが、室内の中央に向けて設置してある。 この工場に呼び出した人物を撮影するためだ。そして、それはディミトリである事は明白だ。(もしくは狙撃の補佐用……) 場所などのマーキングが済んでいれば狙撃の射角などが容易になる。 重要な対象を確実に仕留めるために行う狙撃方法だ。(狙撃兵か……) ディミトリはとある戦場の前線で一緒になった狙撃兵を思い出した。 ある時、狙撃兵が何かを目標に照準して撃っていた。(休憩中なのに仕事熱心な奴だな……) 仕事熱心な狙撃兵にディミトリが質問した。『何を狙っているんだ?』『空き缶を狙っている』 彼はそう答えた。 ディミトリが見ると百メートル程先に空き缶が並べられていた。『……』 もう少しまともな物を狙えば良いのにとディミトリは思っていた。 彼は狙いを付けた物を外さないからであった。『今度の狙撃大会で優勝して後方任務にしてもらうんだよ』 そんなディミトリの思惑を感じ取ったのか狙撃兵が話を続けてきた。 彼は狙撃大会に出場して優勝するのを目標としているようだ。技量優秀な者は後方任務で温存してもらえる。宣伝に使えるからであった。『なら、あの野良犬を的にすれば良いんじゃないか?』 静止した的と動いている的では難易度に違いが出てしまう。練習をするのなら難しい方が技量向上が望めるはずだからだ。 そう思って彼に提案してみたのだ。『それは駄目だ……』 ディミトリの提案は、にべもなく断られてし

    Huling Na-update : 2025-02-02
  • クラックコア   第031-0話 裏目に好かれる人生

    翌日。 ディミトリは祖母に具合が悪いので、病院に寄ってから学校に行くと伝えた。 心配して付いてくると言い張る彼女を説得して、一人で出掛けたディミトリは家電量販店に居た。 ここで小道具の材料を調達するためだ。今回はどう考えても罠にハマりに行くのだ。下準備無しで乗り込むほど自信家では無い。 彼が購入したのはレーザーポインターだ。それと玩具のリモコンも購入した。このリモコンでスイッチを操作するのだ。 レーザーポインターは名前の通りレーザーの強烈な光でポイントを示す物だ。普通に使えば便利な道具だが、カメラにとっては脅威となる代物だ。 レーザーポインターをカメラのレンズに向けて照射する。すると、カメラの中にある電子素子(LCD)は強烈な光で飽和してしまう。つまり、映像をまともに作れなくなってしまうのだ。 これは空き巣や銀行強盗などの時に、防犯カメラを無効にさせる為に使われる手口だ。本格的なやつは赤外線レーザーを使う。カメラに付いている電子素子(LCD)が早く飽和するからだ。 目的のものを入手したディミトリは、そのまま例の廃工場に向かった。前日に開けておいた裏口を通り、カメラが設置されている場所までやって来た。 そして、床に積もった埃に異常が無いのを確かめると、今度はカメラがレーザーポインターで狙い易い位置にやってくる。そこには埃だらけの元資材が積み上げられていた。 手のひらに入る程度のレーザーポインターなので隠すのは簡単だった。(よし、仕掛けは出来た……) ディミトリはレーザーポインターをダンボールの影に隠して学校へと向かった。どうせ使い捨てなので見てくれは気にしていない。 道具は役に立ってこそ意味があるとディミトリは考えていた。 午後から登校したディミトリは何事もなく過ごした。そして、下校時間になると大串の方から声を掛けられた。 大串は時間をずらされて焦っているようだ。そして、ディミトリが受け渡し場所に下見に行った事には気が付いてないようだった。「今日はちゃんと来いよ」「ああ、今夜は何時頃行けば良いんだ?」「夜の七時に俺の家に来てくれれば田口の兄ちゃんが車で送ってくれるってよ」 田口というのは子分の一人だ。クラスメートなのだがディミトリは初めて名前を聞いた気がしていた。「そうか、分かった……」 ディミトリは素っ気無く返事をした。

    Huling Na-update : 2025-02-03
  • クラックコア   第032-0話 嘘つきの目

    大串の自宅前。 武器を捨てられてしまったディミトリは気を取り直して大串の家に向かった。(クソッ! せめて拳銃だけでも無事だったら良かったんだが……) 他にも減音器も捨てられていた。玩具の銃は壁に飾ってあるので、それと一緒に飾っておけば良かったと後悔している。 銃弾は別に保管していたので無事だ。筒状のパイプでも有れば単発式の発射装置が作れるが、工作している暇が無かった。 単純に筒に弾を詰めて、釘か何かで雷管をひっぱたけば良さそうだがそうは簡単にはいかない。 銃弾を固定してやらないと暴発して自身も怪我をするからだ。最低でも薬室を作ってやらないと駄目なのだ。 手持ちの武器らしい武器は自作のスタンガンとスリングショットぐらいだ。これでは心許ない。(致命傷は無理でも牽制には使える程度だな……) 無くなった物を惜しんでも手元には帰ってこない。それより目の前の問題をどうするかの方が大事だ。 しかし、ディミトリの少なくない経験から、ケチが付いた作戦は中止するべきとの教訓もある。(確かに中断するべきだが……) 何よりディミトリには気になる点があったのだ。(何故、俺を指名したんだ?) 取引自体がディミトリを誘き寄せる罠であるのは分かった。だが、何故面倒な真似をしてまで罠に嵌めるのかが謎だ。 それは罠を張った連中を確かめる必要を示唆している。(あの連中が罠なんて面倒な手間をかけるとは思えないんだがな……) あの連中とは鏑木医師を殺害した連中だ。中国語を話していたと思うので中国系と思っていた。 不思議なことに連中は、日数が経過しているにも関わらず手を出してこない。 鏑木医師の事を知っているのなら、ディミトリの事も知っているはずだ。 自分たちの存在が知られたと判明した時点で、自分なら対象の身柄を押さえる。逃げられてしまったら困るからだ。 だが、彼らはそうはしない。銃を持って襲撃するような連中だ。荒っぽい仕事には慣れているはずなのにだ。 これは何を意味するのか? ディミトリには四六時中見張りに付いている連中がいる。その彼らの前で仕事を嫌がっていると捉えていた。 そして、今回の連中は面倒な罠を用意している。これは自分を見張っている連中とも違う事を示唆しているはず。(つまり、今回の罠を張った連中は俺を監視している連中とも、鏑木医師を殺害した連中と

    Huling Na-update : 2025-02-04
  • クラックコア   第033-0話 蛇悪な眼付

    廃工場。 田口の車から一人で降りて工場の方に歩いていく。午前中と違うのは工場の敷地に入るガードは開けられているぐらいだ。 工場の正面にあるシャッターの脇に普通のドアがある。 ディミトリはノックすること無くドアノブを回して中に入っていった。それと同時にポケットに入っているレーザーポインターのスイッチも入れた。 工場の入口から中に入り、歩きだして五秒ほどで周囲の視線に気付いた。刺すような視線。猛獣が獲物を見定めるかのような視線という類のモノだ。(見張られているな……) 殺意の視線。それは、かつて戦場でスナイパーに狙われた時の感覚に似ている。ねっとりとした感触が戦場を思い出させた。(少なくとも四人はいるかな……) ディミトリに持つ全て感覚センサーがそう告げている。そして、全員を始末せよと言っているのだ。(良いねぇ……) まるで『建物全体が捕食者』みたいな感覚。ディミトリの神経が研ぎ澄まされていく。 工場の真ん中あたりに机が一つだけ置かれており。その前に男が一人座っていた。 コイツが売人なのであろう。視線が泳いでいる癖に眼付がやたらと鋭かった。「よお~……」 売人は陽気を装って声を掛けてきた。まるで古くからの知り合いのようだった。「金なら持ってきた。 女はどこだ?」 ディミトリは懐から金の入っている封筒を見せた。二百万入っているので結構分厚い。 男は工場の奥をチラリと見た。ディミトリが一緒に釣られて見ると金髪の女と顔中にピアスを付けた男が居る。 女の腕を捕まえているところを見るとコイツも仲間なのだろう。「女と引き換えだ……」 売人は奥のピアスだらけの男を手招きした。男は女を連れてやってくる。 この金髪女がカラオケ屋で擦れ違った女の子なのだろう。興味が無いので覚えてなどいない。「ほらよ……」 ピアスの男がぶっきら棒に女を離すと、ディミトリが持っている封筒を受け取った。 そのまま、封筒を売人に渡すと、売人は中身を確認し始めた。ピアスの男は売人には目もくれずにディミトリを睨みつけている。 女はディミトリの後ろで大人しく待っていた。 金を数え終わった売人はニヤリと笑った。全額有ったようだ。「ああ、金の確認は終わった……」「そうかい。 じゃあ、女は連れて行くよ」 それを聞いたディミトリは女を連れて帰ろうとした。「まあ、ちょ

    Huling Na-update : 2025-02-05
  • クラックコア   第034-1話 寓話の冥王

    廃工場。 二階の暗闇の中から現れたのは暴力団員風の男だ。 その後ろから一人の男が付いてきている。髪の毛を茶髪にして、耳にはピアスを付けていた。子分だろう。 ディミトリが睨み付ける中、短髪男は子分を従えて悠然と階段を降りてきた。「シカトしてんじゃあねぇよっ!」 自分を無視された売人は大声を出してきた。だが、ディミトリは短髪男を睨みつけたままだ。 本能が『要警戒』と告げているのだ。「まあまあ、コイツが若森って奴か?」 短髪男は階段を降りながら声を掛けてきた。何故かニヤついている。自分が優位に立っていると、思い込んでいる男にありがちな反応だ。恐らく懐に何かを持っているのだろう。 そして男はディミトリの顔を知っているようだった。(やはりか……) 名前も知っているという事は、中国の連中の仲間かもしれないと考えた。「大人しくコッチの質問に答えれば痛い目に遭わなくて済むよ……」 短髪男は懐からベレッタを取り出した。イタリア製の優秀な拳銃だ。 余裕が有ったはずだった。(ベレッタか…… 装弾数は十五発だっけ?) ディミトリが銃を見ていると、短髪男は遊底を引いて薬室に弾を送り込んだ。 恐らく、ディミトリが銃を見るのを珍しがっていると勘違いしたのであろう。玩具を手に入れた子供が粋がるようなものだ。「お前が知っている、お宝の有りかを教えて欲しいんだよ」「お宝? 俺の秘蔵のエロ本か??」「舐めんじゃねぇっ!」 馬鹿にされたと思った短髪男は床に向かって引き金を引いた。銃の発射音が室内に響く。空薬莢が床に転がる音が続いた。 急な事に女はビックリして悲鳴を上げてしまっている。「ちょっと、私関係無いんだけどっ!」 女が咄嗟に逃げようとして走り出した。そこを短髪男が発砲してしまった。引き金に指を掛けたままだったのだ。 素人が銃を持った時によくやる失敗だ。 女が急に動いたのでビックリして銃を向けてしまい。その際に引き金に力が加わったのだ。「ぐあっ!」 だが、運の悪い事に狙いが逸れてディミトリに命中してしまった。脇腹の辺りにだ。 万が一の事を考えて防弾チョックを着ていた。しかし、防弾用素材と素材の隙間にある、縫い目を弾丸は通過したようだ。 ディミトリが昔使っていた奴はそうは成らなかった。普通の防弾チョッキには縫い目など無い。 さすが中華製だ。

    Huling Na-update : 2025-02-06
  • クラックコア   第034-2話 瀬戸際の女

     これはロシア軍の初年訓練でさんざんやらされた訓練の一種だ。もっとも、実際の戦場で役に立ったこと無かった。 接近する時には銃弾を雨のように撒き散らして相手を殲滅するからだ。ドンッ ディミトリは男の腹を目掛けて引き金を引く。そのままの体制でピアスの男・売人・半グレの子分と撃ち続けた。 突然の展開に驚いた彼らは、身を隠すなどという事をしなかった。射撃の的のように簡単だった。 彼らは銃撃戦という物の経験が無いのか、その場に棒立ちのままだったのだ。「……」 工場の中は彼らのうめき声で満たされている。ディミトリは無言のままピアスの男に近づき頭に銃弾を撃ち込んだ。 短髪男の子分も同様に射殺した。 彼らはディミトリが欲しい情報を持っていない。つまり、不要だから処分したのだ。下手に生かしておいて復讐に来られたら面倒だとの考えからだ。「ま、待て…… た、助けてくれ……」 売人の男が哀れな声を絞り出しながら嘆願してきた。「何故、俺を罠に嵌めたんだ?」 ディミトリは売人に尋ねた。「その男に頼まれたからだ……」 売人は短髪男を指差しながら答えた。「そうか……」 ディミトリは売人を射殺した。もう、用は無い。 彼はそのまま短髪男の所にやって来た。「お前は誰の使いで来たんだ?」「うるせぇっ!」「そうか……」 ディミトリは短髪男を射殺した。聞きたい事は山程あるが、ディミトリは治療を必要としている。 生かしておく理由も義理も無い。何より時間が無いので始末したのだった。 すると部屋の中に異臭が漂い始めた。「ん?」 見ると女の足元に水たまりが出来つつ有った。失禁したのだ。それはそうだろう彼女の人生で、殺人を目撃することなど無かったからだ。 ところが、目の前にいる男は躊躇すること無く、銃弾を人間に送り込んでいる。しかも、助命を懇願する相手にもだ。「お前もコイツラの仲間か?」 彼女は盛んに首を振った。彼女の目は一杯に開かれている。恐らく相手に対する恐怖がそうさせているのだろう。「た、頼まれただけです……」「誰に?」「大串くんです……」「本当か? 考えて答えろよ。 お前は死ぬかどうかの瀬戸際にいるんだ……」「誓って本当です……」「ふん……」 きっと、嘘だろう。女相手の尋問は色々と楽しいが今はやらない事にした。時間が惜しい。 出血の度合

    Huling Na-update : 2025-02-07
  • クラックコア   第035-1話 代償

    田口の車。 ディミトリは女の子を連れて車に戻ってきた。「何か騒いでたみたいだったけど大丈夫か?」「花火の音がしたから様子を見に行こうかと話してる最中だったんだ」 大串や田口が話し掛けてきた。ディミトリは女を三列シートの一番うしろに座らせて、自分は二番目のシートに座っている大串の隣に座った。「その花火の音は銃声よ……」 女は顔を曇らせたまま話した。「え……」 戻ってきた二人の様子がおかしいのは三人とも気が付いていたが、まさか銃声とは思ってなかったようだ。「彼が撃たれたの……」 話を聞いた一同はディミトリの方を見た。手には拳銃が握られているのを、その時に気が付いたようだ。 田口の兄は身を少しだけ乗り出して、ディミトリの様子を窺っていた。心配なのでは無い。銃が本物かどうか気にしているのだろう。「大丈夫だ。 車を出してくれ……」 そのディミトリは脇腹を押さえている。額には脂汗が浮かんで苦しそうだった。「病院に行った方が良くないか?」 それを聞いたディミトリは田口の兄貴を銃床で殴った。 銃で撃たれたと言ってるのに、呑気に病院に行けなどと言う馬鹿に腹が立ったのだ。 そんな事をすれば警察を呼ばれて大事になってしまう。後先を考えない輩は大嫌いなのだ。 そんな頭の悪いやつは殴って言うことを聞かせるに限る。自分がそうされてきたからだ。「こんな傷を見せれば銃傷だってバレちまうだろうがっ!」「すいません…… すいません……」 頭を庇いながら何度も謝っている。いきなり殴られて気持ちが萎縮しているようだった。「それに、あの倉庫には死体が四つもある」「え?」 三人は同時に金髪女を見た。彼女は頷き返した。 それでディミトリが負傷している理由が分かったようだ。「警察呼ばれたら、お前ら全員かなり拙い立場になるんじゃねぇか?」「ああ、そうか……」 やっと、四人ともディミトリが怒った理由に思い至ったようだ。(拙い処じゃないがな……) もっとも、ディミトリが怒ったのは自分も拙い立場になる事だ。この四人がどうなろうと知ったことでは無いと考えている。「ちったあ考えて物を喋れっ! 間抜けっ!」「ぐぅ……」 ディミトリが腹を押さえて苦悶の表情を浮かべていた。かなりの激痛のようだ。「このまま友月橋に向かえ」「え?」 ディミトリは田口の兄貴を銃床

    Huling Na-update : 2025-02-08
  • クラックコア   第035-2話 身代わり効果

     次にディミトリは大串を銃床で殴りつけた。大串の鼻から鼻血が吹き出し始めた。「テメエは何故俺を嵌めた?」 ディミトリは銃を大串に向けながら言った。「いえ、あの売人の後輩がオタク風の奴に喧嘩で負けたと聞いたものですから……」「そのオタク風ってのは俺のことか?」 銃を大串の頬にゴリゴリと押し当てながら尋ねる。「ええ……」「俺は『ハイ』と言えと注意したはずだ……」「ハイッ!」 大串たちは、ディミトリが何らかの組織に狙われているのは知らない。 きっと、売人の後輩とやらと揉めた事であろうと思っていたらしかった。それだけに銃が出てきたのは驚愕の事態だったようだ。「ソッチだったのか…… クソ共め……」 本当なのかどうかは、今は確かめることが出来ない。今は腹の中にある銃弾をどうにかしないといけないのだ。「明日までに同じ金額を用意しろ……」「え、そんなの無理です……」ドンッ 彼の股間スレスレに銃弾を送り込んだ。シートが焦げる匂いが車内に充満していく。 大串は顔を引きつらせてしまった。「お前の予定なんざ知った事か、この兄ちゃんでも何でも使って用意させろ!」 ディミトリは運転する田口の方を顎で示しながら怒鳴りつけた。「あうぅぅぅ……」 しかし、ディミトリは呻き声を上げてしまっている。 自分の怒鳴り声が腹に響いたようだ。再び腹を押さえていた。「あの、何に使うので……」 田口が恐る恐る尋ねて来た。「医者に金を握らせるに決まってるだろう……」 ディミトリは脇腹を押さえている。押さえていても血が出てきているのが分かるくらいだ。 車は友月橋に到着した。 ディミトリが車を降りる間際に警告を全員に言った。「誰にも喋るんじゃねぇぞ……」「はい……」「もし、警察が俺の周りをウロウロしたら、お前らの母親を真っ先に殺しに行くからな?」「はい……」 車に乗っていた四人は何度も頷いていた。 母親が嫌いな子供は滅多にいない。それを自分の身代わりに殺すと言う脅しは結構効果があるのだ。 そして、ディミトリは実行するつもりだった。裏切り者は許さないのが鉄則だからだ。「その間抜けな頭に叩き込んでおけ……」「はい……」「俺が堪えるのはここまでだ、次はお前もお前の家族も仲良く海底に沈むことになる」「はい……」「俺がどういう風に容赦しないかは、そこ

    Huling Na-update : 2025-02-09

Pinakabagong kabanata

  • クラックコア   第081-2話 符号コード

     ディミトリの目が冷たく光り、手に持った銃をアオイに向けた。その銃口には音を消すための減音器が装着されている。 敵には一切の情けを見せないのを知っているアオイは銃口の先を見つめた。今にも銃弾が出てくる気がしたからだ。「それじゃあ、コレは偽物なのね……」 アオイはバッグから外付けハードディスクを取り出して見せた。「ああ、ソレは俺のデカパイねーちゃんコレクションだ」 そう言ってディミトリは自分のポケットから外付けハードディスクを取り出して見せた。大きさはB6サイズのシステム手帳程だ。 コレにも自分が存在しているかと思うと、背中がむず痒くなるのを覚えた。「コイツが引き出しに入っていた本物だろう……」 その筐体の外側に『Q-UCA』と文字が書かれた白いテープが貼られている。マジックでなぐり書きされた物では無いので本物っぽく見えている。「ちゃんと符号コードを調べたの?」「何だソレ?」「真贋を確かめる為の符号コードが付加されているのよ」「そうか…… じゃあ、調べてみてくれ」 ディミトリは手にした外付けハードディスクをアオイに渡した。アオイは素直に受け取った。出し抜けるチャンスが或るかもと考えていたのかも知れない。 彼女は接続コードをハードディスクに差し込んで、持ってきたバームトップのパソコンに繋いだ。「暗号キーは128ビットの符号で出来ていて、そのコードが一致していると本物と判定されるの……」 真贋を判定するアプリケーションを動作させながらアオイが説明した。「んーーー…… 日本語で頼む……」「偽物が作りにくいって事」「なる程……」 専門用語を並べた建てられたディミトリは根を上げてしまった。落ち着いて聞けば理解できるのだろうが、横文字を並べたがる専門家の説明は分かり難い物だ。「コレは本物みたいね」 パソコンを覗いていたアオイが返事をしてきた。どうやら符号とやらが合致して彼女が探していたものらしいと分かったのだ。「そうか……」 突然、くぐもった音が室内に響き、机に有った外付けハードディスクに穴が空いていく。やがて、様々な細かい部品を撒き散らしながら床に落ちていった。「ちょっと何をするのよ!」 いきなりの行為にアオイがディミトリに向かって抗議した。折角、忍び込んで目当てのものを探しだしたのに目の前で破壊されたので当たり前であろう。

  • クラックコア   第081-1話 女の正体

    鶴ケ崎博士の研究所。 研究所と言っても洋風の屋敷だった。都内から少し離れた都市に広めの一軒家だ。 鶴ケ崎博士はこの屋敷を住居兼研究所としているのだった。 主要な駅から離れた場所にある屋敷の周りは、人通りも無く街灯だけが唯一の明かりであった。 そんな閑散とした通りを白い自動車がゆっくりと通り過ぎていく。まるで、屋敷の中を伺うかのような動きには、野良猫ですら警戒の目を向けている。 屋敷を通り過ぎ、街灯の明かりが途切れる辺りで白い車は停車した。車を運転していた人物は、車のエンジンを切って静寂の中に何かしらの動きが無いかを探るように辺りを伺っていた。 運転手は黒ずくめの格好をしていた。だが、胸の膨らみは隠せない。女性であろう事は外観で判別が出来た。 彼女は壁を軽々と乗り越え、屋敷の外壁に張り付いた。そして、周りを伺う素振りも見せずに台所の扉に取り付いた。 玄関に向かわなかったのは防犯装置が付いているのを知っているからだろう。 台所に扉を自前の解錠用キットで開けた彼女は台所に有った防犯装置を解除した。こうすると家人が家に居る事になって、警備会社に通報が行かなくなるのだ。彼女は防犯装置に詳しいのだろう。鮮やかな手口であった。 博士は独身だったのか、研究所の中は無人であった。 屋敷に侵入できた彼女は迷わずに二階に向かっていった。二階に博士の研究室があるからだ。 室内に入って中を見回す。様々な専門書が壁一面を埋め尽くしている。 部屋の中央の窓よりの部分に机があった。机の上を懐中電灯で照らし出す。机の上にはノートパソコンが一台あった。 ノートパソコンを開けて中を見たが、目的の物が見つからなかったのかため息を付いていた。そして、机の上を懐中電灯で照らして何かを探している。 やがて、引き出しを開けると外付けのハードディスクがあった。表にガムテープが貼られていて、マジックで『Q-UCA』と乱暴に書かれている。「……」 彼女はそれを手にとってシゲシゲと眺めた。やがて、彼女はそれを自分のバッグの中にしまい込んだ。目的のものを見つけたのだ。 すると、部屋の片隅で何か物音がして部屋の明かりが点いた。「!」 彼女は物音がした方角に厳しい目を向け身構えた。「来ると思ってたよ……」 暗闇から一人の狐の覆面を被った男が進み出て声を掛けて来た。彼女はいきなりの展

  • クラックコア   第080-2話 色々な方面の人気者

    『ワカモリさん。 どうしましたか?』『急で申し訳ないけど、偽造パスポートを都合して貰えないか?』『ワカモリさんは日本人ですから、日本のパスポートをお持ちになった方が色々と捗りますよ?』 日本のパスポートの信頼度は高い。他の国のパスポートでは入国管理の時に念入りに質問されるが、日本のパスポートの場合には簡単な質問のみの場合が多いのだ。 スネに傷を持つ犯罪者たちには垂涎の的なのだ。『ワカモリのパスポートは使えないんですよ』『え?』『色々な方面に人気者なんでね』『ええ確かに……』 ケリアンが苦笑を漏らしていた。ディミトリが言う人気者の意味を良く知っているからだ。 公安警察の剣崎が自ら乗り出してきた以上は、ワカモリタダヤスは逃亡防止の意味で手配されていると考えていた。『分かりました。 少しお時間をください』『どの位かかりますか?』『一ヶ月……』 ディミトリが依頼しているのは偽造パスポートだ。作成するには色々と下準備が必要なものだ。それには時間もお金もかかる物なのだ。『もう少し早くお願いします。 厄介な所に目を付けられているんですよ』『警察ですか?』『公安の方ですね』『分かりました……』 中国にも公安警察は存在する。そこは欧米などの諜報機関に相当する部署だ。ディミトリが傭兵だった時にも、噂話は良く耳にしていたものだ。 荒っぽい仕事をするので海外での評判は悪かったのだ。 日本には諜報機関は存在しない事になっている。だが、日本の公安警察がそれに相当する組織と見なされていた。 もっとも、国内に居る犯罪組織や日本に敵対する組織の監視が主な任務で、海外の諜報機関のように非合法活動で工作などしたりはしない事にはなっている。だが、表があれば裏が有るように、ディミトリはそんな話は信用していなかった。 ディミトリが『公安警察』に目を付けられていると聞いたケリアンは、ディミトリが急ぐ理由が分かったようだった。『では、二週間位見ておいてください』 少し考えていたのか間をあけてケリアンが返事してきた。 偽造パスポートが出来たら部下に届けさせるとも言っていた。ケリアンは香港に居るらしい。日本国内だと身の危険を感じるのだそうだ。『しかし、人気者だとしたら日本から出国する際に、身元の照会でバレるかも知れませんよ?』 日本には顔認証による人物照会を行

  • クラックコア   第080-1話 手駒の思惑

    自宅。 ディミトリは病院から帰宅してから部屋に籠もったままだった。 ベッドに転がって天井を睨みつけながらこれからの事を考えていた。 先日の剣崎とのやり取りで気になったことがあったのだ。 一番はヘリコプターを操縦する姿を撮影されていた事だ。 これは、常に張り付きで見張られていた事を示している。きっと、ジャンの倉庫に連れ込まれてひと暴れしたのも知っているのだろう。『人を撃った銃をいつまでも持っているもんじゃないよ』 剣崎はそう言ってディミトリが持つ銃を持っていった。(そう言えば、あれって弾が残っていなかったじゃないか……) 鞄の底から銃を見つけた時に、弾倉を確認していたのを思い出していた。その後、剣崎がもったいぶって登場したのだ。 あれは狙撃手が銃を手に持ったのを確認していたのだろう。つまり、ディミトリが銃と弾倉を触ったのを監視していたのだ。(指紋付きの銃を持っていかれたんじゃ言い訳が出来ねぇじゃねぇか……) 恐らく、倉庫からジャンの手下の遺体を回収済みだろう。遺体の幾つかはあの銃で撃ったものだ。線条痕と指紋付きの銃を持っていかれたらディミトリが犯人だと証明できてしまう。(こっちの弱みを握って何をさせるするつもりなんだよ……) 剣崎は『公安警察』だと言っていた。自分の知識の範囲内では『日本の諜報機関』との認識だった。(俺の家を見張っていたのも剣崎だったのかも知れないな……) オレオレ詐欺グループのアジトを襲った時に、何故か警察のガサ入れが有った。あれは剣崎の指示でやらせたのかも知れない。 それにパチンコ店の駐車場で暴れた時も、店の防犯カメラがディミトリを映していないも不思議だった。それも、剣崎が『故障』させた可能性が高い。ディミトリの存在を秘匿して置きたいのだろう。(金には興味無さげだったな……) 何度目かの寝返りをうって剣崎との会話を思い出していた。一兆円の金を『端金』と言っていた。 本心かどうかは不明だが、普通の奴とは違う考えを持っているようだ。(まあ、確かに人を殺めるのに躊躇いが無い奴は、手駒にしておくと便利だわな……) 便利な使い捨ての駒が手に入ったと剣崎は考えているのかも知れない。(今どき殺し屋でも無いだろうに……) どっちにしろ、まともに扱われるとは思えない。(人の目を気にしながら歩きたく無いもんだな……)

  • クラックコア   第079-2話 オレンジ色のドットポイント

    「一つは中国系で日本のチャイニーズマフィアと繋がりがある……」(ジャンの所か……)「一つはロシア系で日本の半グレたちと繋がりがある……」(チャイカの所だな……) ディミトリは何も反論せずに剣崎の話を聞いていた。「全員、君が握っている情報に彼らは興味があるそうなんだがな?」「さあ、何の話だかね……」 麻薬密売組織の資金の事であるのは分かってはいるがトボけた。どう答えても面倒事になるのは分かっているからだ。「少なくとも君を巡って二つの組織が動いている」「中年のおっさんにモテるんだよ。 俺は……」「まあ、特殊な性癖を持つ人には魅力的なのかも知れないが私には分からんよ」「そいつらが探しているのが俺だと言いたいんで?」「他に誰がいるんだ?」 剣崎はディミトリの話など興味ないように続けた。「東京の端っこに住んでる中学生が握ってる情報なんて、近所のゲーセンに入っている機種は何かぐらいだぜ?」「それはどうかね……」「俺はその辺に転がっている平凡な中学生の小僧ですよ?」「それは君にしか分からない事かもしれないね…… 若森くん」「あんた……」「前に来た刑事たちとは違う匂いがするね……」「君と同類の匂いでもするのかい?」「……」「君の言う平凡な中学生ってのは、ヘリコプターを操縦できるのかい?」 剣崎が写真を一枚投げて寄越す。ディミトリは受け取らずに落ちるに任せた。足元に白黒写真が落ちた。 そこにはヘリコプターを操縦する若森忠恭が写り込んでいた。「ヘリの操縦の特殊性は理解しているつもりだ。 機体を五センチ浮かせて安定させるのに半年は掛かるんだそうだ」「……」「最近の中学生はヘリの操縦までするのかね?」「保健体育で習ったのさ」 ディミトリは負けじと言い返した。「それともディミトリ・ゴヴァノフと呼んだ方が早いかな?」「……」 ディミトリの眼付が険しくなった。部屋中にディミトリの殺意が充満していくようだ。「あんたも麻薬組織の金が目当てか?」「……」 ディミトリは銃を引き抜き剣崎に向けた。もちろん殺すつもりだった。だが、引き金を引こうとした時にある事に気がついた。 オレンジ色のドットポイントが剣崎の額に灯っているのだ。だが、それは直ぐに消えた。「クソがっ……」 ディミトリの経験上、ドットポイントが意味するのは一つだけだ。

  • クラックコア   第079-1話 男たちの連鎖反応

    大川病院の一室。 ディミトリは退院をする為に起き上がっていた。安静にしていれば肩の骨は繋がるだろうとの診断がおりたのだ。 骨にヒビが入った程度の怪我では長期は入院させて貰えないのだ。他の重篤な患者用に退院させられる。 退院の為に荷物づくりをしているのだ。左手が効かないので右手だけでやっている。 着替えなどを鞄に入れていると、その着替えの入っていた鞄の底に銃があった。(え? 何故?) 銃を手にとってみるとジャンの倉庫から脱出する時に使っていたトカレフだ。弾倉を抜き出して確認してみると、中に弾は残っていなかった。(一緒に持ってきた?) 話を聞いた限りでは、身一つで病院の応急処置室に放置されていたと聞いている。それにこんな物騒な物を持っていたら、警察の方で問題視されているはずだ。(アオイが置いて行ったのかな……) ディミトリが入院している間にアオイはやって来て無い。(病室に自分は来たというサイン?)(いやいやいや…… 普通に書き置きで良いだろ……) これが見つかると拙い立場に立たされてしまう。そういう事を思いつかない女では無いはずだとディミトリは訝しんでいた。(そう言えばお婆ちゃんが玩具で遊ぶのも程々にしろと言っていたような気がする……) 祖母はコレを見て、孫の部屋にあったモデルガンを思い出したに違いない。 そんな事を色々考えていると病室の扉がノックされた。ディミトリは慌ててトカレフを背中に隠した。日課のようにやって来る刑事たちだと思ったのだ。「どうぞ」 返事をすると男が一人入って来た。だが、男は毎日やって来る刑事とは違う男だった。「やあ、若森くん…… 君に事故の事を詳しく聞かせて欲しいんだよ……」「いつもの刑事さんたちじゃ無いんですね……」「ああ、所属先が違うもんでね」 ディミトリは警戒しはじめた。刑事たちの眼付は鋭いが、この男からは違った雰囲気を感じ取ったのだ。 そんなディミトリの思惑を無視するかのように質問をし続けた。「君が道路に飛び出した訳を聞きたくてね」「ちょっと、道路を渡ろうとしただけですよ」「そう…… 君が事故に巻き込まれるちょっと前に、パチンコ店に車が飛び込んで来てね」「はあ……」「運転していた男の背格好が君にソックリなんだよ」「僕じゃ無いですよ」「パチンコ店に飛び込んで来た車は、パチンコ店に併

  • クラックコア   第078-2話 疫病神

     十代の頃に自動車の窃盗で捕まった事がある。その時に、相手の刑事に嘘を並べ立てたがどれも通用しなかった。 最初から全部バレていて全て反論されて自白させられたのだ。 自分では整合性を合わせているつもりでも警察には通用しない。何しろ悪知恵の回る嘘つき相手の商売だ。小悪党の浅知恵など通用しないのだ。 刑事たちを病室の入り口まで見送った祖母は、戻ってくるなりディミトリに尋ねてきた。「タダヤス…… お前は何をしてるんだい?」 祖母はディミトリが無断外泊していた事は言わなかったようだ。ふらりと居なくなったかと思えば、車に刎ねられて病院に入院している。何を考えているのか心配でしょうがないのだろう。 自分はどうやって病院に来たのかと尋ねたら、緊急病室のベッドの上にいつの間にか居たのだそうだ。 幸いタダヤスの顔を知っている看護師が、若森忠恭の事を思い出してくれたらしい。彼は長いこと入院していたのだ。 傷だらけでベッドの上に放り出されていたので騒動になったのも頷ける。それで警察が呼ばれたらしかった。 もちろん、祖母はディミトリの本性は知らない。タダヤスの脳に人工的にディミトリィの魂が埋め込まれているなどと知らせるつもりは無いのだ。それは彼女の為にならないだろう。「ん……」 不意に頭痛がディミトリを襲った。彼の顔がたちまち曇っていった。「痛むのかい?」「ああ、少し横になるよ……」 そう言ってベッドに横になった。この偏頭痛は副作用的なものであるらしい。 無理やり書き込んでいるので、脳の処理が追いつかず肥大化する原因になっていると予測している。脳の活動が活発になりすぎているのだろう。やがて脳が肥大化しすぎて機能停止するとも博士が言っていたような記憶がある。(それって、結構ヤバイ状態じゃないのか?) ディミトリは頭痛の理由が分かり少し焦りを覚えた。今のところはディミトリの人格が現れているに過ぎない。外見的にはタダヤスである。 ディミトリを追いかけ回す連中も事情は知っているのだろう。だから、焦っているのかも知れないとディミトリは思った。 目的はディミトリが持っている資産だ。 それは、中南米の某銀行に預けられている。百億ドル(約一兆円)にもなる金だ。 だから、魂が消えてしまう前にお宝の在り処を聞き出す必要があるのだ。(連中が躍起になって俺を追いかけ回す

  • クラックコア   第078-1話 何処にでも居る小僧

     看護師が出ていくのと入れ替えで祖母が入ってきた。ディミトリが起き上がって居たのにビックリしたようだ。 それでも心配だったのか、優しく声を掛けてきた。「タダヤス…… 大丈夫かい?」「大丈夫」「本当に男の子はヤンチャで困るわねぇ」「心配かけてゴメンナサイ……」 ディミトリは祖母には素直になるのだ。大好きな祖母に頭を撫でられて泣きそうになってしまった。 果たして祖母にどう説明したものかと考えていたら、病室のドアがノックされてどやどやと男たちが入ってきた。 一人は白衣を着ていたので医師だと分かったが、残りの男二人はスーツを着ていた。しかも眼付が鋭い。(こういう眼付の悪いのは刑事と相場は決まってるな……) 医者は頭痛はするかとか、吐き気は無いかとか質問していた。「こちらは所轄署の刑事さんたちだ」 そう刑事たちを紹介した。車の事故が通報されて、刎ねられた若者が連れ去られたと手配されていたのだ。 捜査していると似たような背格好の男が病院に入院しているので調べに来たらしい。「病状が安定してませんので、質問は手短にお願いしますね?」「はい……」 刑事たちが医者に頭を下げると、それが合図だったかのように看護師を従えて出ていった。「やあ、事故の事を詳しく聞かせて欲しいんだよ……」 ディミトリの方に向き直った刑事たちが尋ねて来た。「道路を渡ろうとしたら車に刎ねられたんです」「横断歩道じゃない所だよね?」「ええ…… 信号機の所まで行くと時間が掛かりそうだったので……」 ここで刑事たちは何事か耳打ちをしていた。そして、今の話をメモ書きするする振りをしながら質問を重ねて来た。「誰かに追いかけられていたと証言する人が居るんだけどね?」「いえ、そんな事無いですよ」 やはり何人かに目撃されて居たようだ。まあ、パチンコ店に車で突っ込んだのだからしょうが無いことだろう。「当日、パチンコ店に車が激突してたんだが、運転していたのは君にソックリだと言われているんだけどね?」「車の免許は持ってないですよ?」「目撃者の証言する年格好が同じに見えるだけどね?」「さあ、そう言われてもね…… 見ての通り何処にでも居る小僧ですよ?」 パチンコ店には至る所に防犯カメラが有るはずだ。それにディミトリが映っている筈なのだが刑事たちの歯切れが悪い。 ひょっとしたら、

  • クラックコア   第077-2話 上書き保存

    (まあ、上書きされるのだから消えてしまうのだろうな……) 一家は全滅するわ脳は乗っ取られるわで、ワカモリタダヤスは地球上でもっともツイテナイ奴だったようだ。(しかし、見ず知らずの小僧に上書き保存されているのか……) 何だかパチモンのUSBメモリーに保存された、違法ソフトの気分に成ってきたのだった。「最近、偏頭痛が酷くないかね?」「ああ、失神してしまうぐらいに手酷いのが襲って来るよ」「その偏頭痛は副作用的なものだな」「……」「他人の脳に無理やり書き込んでいるので、脳の処理が追いつかず肥大化しはじめとるんじゃ」「すまない。 人間に優しい言葉にしてくれ……」「脳の活動が活発になりすぎている。 なら良いか?」「ああ……」「やがて脳が肥大化しすぎて機能停止してしまうかも知れんな…… ふぇっふぇっふぇ……」 博士がそう言って力無く笑い声を出した。「そうか…… じゃあ、元に戻るには自分の身体が必要と言うことだな?」「……」 ディミトリは相手に書き込みが出来るのなら、元に戻すことも出来るのではないかと考えたのだ。 それで博士に質問してみたのだが彼は俯いて黙ったままだった。「?」「……」 ディミトリは振り返って博士を見た。項垂れている。明らかに様子がおかしい。「博士?」「……」 アオイが博士の身体を揺さぶってみたが反応は無い。 彼女は博士の首に指を当てて呟いた。「死んでるみたい……」 博士は椅子に座ったまま絶命していた。シートの下に血溜まりが見えている。 ヘリコプターが飛ぶ時の銃撃戦の弾丸が腹部に命中していたのだった。「くそっ、肝心なことを言わずに……」 一番聞きたかった所を言わずに博士は逝ってしまったようだ。 ディミトリの自分探しの旅は終わりそうに無かった。見知った天井。(うぅぅぅ…… ここはどこだ?) ディミトリは眩しそうに目を開けた。眩しいのは自分の頭上にある蛍光灯のせいのようだ。 だが、視界が定まらないのかグルグルと部屋が回っているような感覚に襲われている。いつもの既視感である。(くそ…… またかよ……) どうやら、お馴染みの大川病院であるようだ。 ディミトリはジャンたちが使っている産業廃棄物処理場にヘリコプターを着陸させた。ここなら無人であると思っていたのだが、考えていた通りに誰も居なかった。ヘリコ

Galugarin at basahin ang magagandang nobela
Libreng basahin ang magagandang nobela sa GoodNovel app. I-download ang mga librong gusto mo at basahin kahit saan at anumang oras.
Libreng basahin ang mga aklat sa app
I-scan ang code para mabasa sa App
DMCA.com Protection Status